「みんなで頑張ってきたトヨトミ自動車の仕事な、あれ、来年度から無しになった。」
設計図を出してまですり合わせた仕事を打ち切りを告げられた翌日、工員たちに告げた。
全方向からちょっと待ってくれよ親父さん、との声が飛ぶ。
技術を持ち帰っていらなくなったら捨てるのか、知らないうちにウチの技術を実装する、
あんな無礼な会社は無い…。
澱のように溜まっていた不満が一度に噴き出した。
「バカな!」統一は叫んだ。「事業買収を白紙に戻すだって!」
喉から手が出るほど欲しいベンチャー企業から断りが入った連絡だった。
「落ち目の自動車メーカーを支える力は無い、「倒れる巨人」ではなく
未来ある企業に売りたい、とCEOから悪びれもせず言ってきたよ…」
「あなたは昔、「この指とまれ」と先端技術でパートナーとなる企業を募ったが、
強力な仲間を集めるるためには自分で走り回る必要があり、実際にそのようにした。
今よりも、次の立場の方がそれをやりやすい。」
ここからは私の推測ですが…と夜討ちの記者が告げた後、
彼は「その続きは家の中で話しましょうか」と語りかけたのであった。
名古屋にある世界一の自動車メーカーである「トヨトミ自動車」の社長である豊臣統一が描く理想と現実のギャップ、社会の変化や自身の企業内とも対峙する姿を描いた物語です。
以前ご紹介しました「トヨトミの野望」の続編になります。
物語は2016年から2022年末までの6年間と短いながら、巨大企業である「トヨトミ自動車」と自動車企業をただの「メーカー」として扱おうとする新興IT企業群、また企業と個人のエゴで生じる歪みや大企業病を患った社内政治家達と思惑が錯綜する中、統一は独善的ながら将来あるべき像を描き、それを信じて進み続ける姿が記された内容の濃い物語になっております。
前作同様、作品背景は皆様が思うあの企業を想像させる要素が散りばめられております。
また、時代の社会描写も現実世界と瓜二つ(中国大企業の女性経営者が逮捕される等)である点もノンフィクションを感じさせる要素となっています。
私が特に推したい場面は、統一が非常に重要な、小さな核心技術を得るため心を砕くシーンです。
権謀策術や社内政治が蔓延する作中でも、技術が必要かつ大切であることが描かれており、非常に共感を覚えました。
巨大企業の社長が社内外の変化や思惑に翻弄されながら歩む姿を描いた企業小説、是非ご一読願えれば、と思います。
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