一対零。緊張した投手戦にピリオドが打たれた。
「お前には、まだやり残したことがあるはずだ」
試合を見て魂を奪われたように放心する男の肩に手を乗せた。
「このまま野球を止めたら何も解決しない。
お前を救えるのは、お前しかいない ―待っているからな。」
監督はスタンドの階段をゆっくりと降りていく。
身動きせずグラウンドを見つめ続けた男の唇がようやく動いた。
「オレ…悔しいです。ほんとに、悔しいです」
「それ以上言うな、俺たちも同じ気持ちだ。」
選手だったマネージャーは少々荒っぽく肩を組んで言った。
「一緒に戦おうぜ、オレたちと」
リーマンショック直後の景気低迷時、窮地に追い込まれた電子部品メーカー「青島製作所」とその野球部の健闘を描いた小説です。
この小説は大きく分けて経営パート/野球部パートに分かれます。
前者の読みどころは、苦しむ青島製作所に居る社長/総務部長(兼野球部長)/技術部長などの登場人物がそれぞれの視点・立場で考え、それぞれの敵や課題に挑む姿が詳細に描かれている点です。
取引先からの減産通知が積みあがり、何がベストであるかを悩みぬく社長、
野球部を愛しながらも総務部長としての職務と判断を行わなければならない野球部部長、
会社の危機の中でも技術部長として譲れない主張を唱え、ただそれでも開発に注力する技術部長、
と、多くの人物が苦労・苦悩し、その末に実を結び、形となっていく描写が心に響きます。
野球部パートでは、新監督の統計的分析による改革や、才能がありながらも周りの環境や社会情勢に幾度となく打ちのめされる野球青年にチーム全員が救いの手を差し伸べ、苦しみながらもチームが勝ち上がっていく描写は非常に清々しい気持ちになります。
試合のシーンについても子細に描かれ、臨場感を強く感じる描写となっております。
著者の池井戸潤さんは「半沢直樹」シリーズで世に広く知られた方で、この物語もTVドラマ化されて好評を得ておりました。TVドラマでのクライマックスシーン、ライバル球団との決戦の場面では、多数観客が動員されている演出で熱く盛り上がっていたことを覚えています。
題名になっている「ルーズヴェルト・ゲーム」は、ルーズヴェルト大統領の「一番面白いゲームスコアは八対七だ」との言葉に由来します。
物語自体も劣勢に立たされながらも食らいつき、それぞれが最後まで諦めない、熱いものになっています。
それぞれが逆境に立ち向かう姿を描いた企業小説、是非ご一読願えれば、と思います。
コメント