(書籍紹介)黄金の稲とヘッジファンド

「大悪人登場だな…その空手形の話、俺が裏書きしてやろう」
大笑いしながらそう言った神宮副理事長に、三嶋はありがとうございます、と深々と頭を下げた。
「これで金庫は安泰だ。初めて俺がいなくなっても金庫がさらに大きくなれると思ったよ」
はぁという表情を三嶋が見せた。
「大悪人の三嶋と大相場師の城山がいるからな。あいつは本物の相場師だ。俺がいなくなり、あいつが必要となったときちゃんと戻ってくる。ヘッジファンド産中のために、な」

主人公 城山良太の、1980年代の規制緩和・自由化の時代からリーマンショックまでの間、農林水産業協同組合金融部門の中央組織である第一次産業中央金庫(著書内では産中となっています)で、組織の枠への挑戦、産中の帝王と呼ばれる神宮に見出されてからのトレーダーデビュー、その後のあるべき産中の姿を見出しながら、組織人として歩む道のりを描いた経済小説です。
明示はありませんが、著者の波多野さんが農林中央金庫(JAバンクの本部となる組織)に勤められていたこともあり、フィクション上で時代、社風、そして設定をミックスさせ描かれております。

作中、城山が体験した昭和時代の規制緩和やブラックマンデー、投資機関の手法、バブル時代の金融機関の振る舞いなどが子細に描かれております…日本企業の社費留学先での慣例などは、今では考えられないことばかりな気がします。
また、産中の「第一次産業のメンバーシップバンク」として、各協同組合や地域連合会との調整など、金融だけでは語れない「組織」の描写も、物語を引き立てます。

投資信託などでは「農林中央…」とあるものが存在することは知ってはおりましたが、これを読むまでは、農林中央金庫がヘッジファンドといわれるほどの組織とは思っていませんでした。
本は世界を広げてくれます。

バブル前からリーマンショックの一時代を産中という組織の中で駆け抜けた城山良太の物語、ご興味ありましたら是非どうぞご一読いただければ、と思います。

(すみません、一部修正のうえ再掲示させていただいております。)

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